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第2回 Knowledge Graphとは何か

2026.09.14

技術

AIは「文章」だけでなく、「知識」を理解する時代へ

前回は、企業向けAIで広く使われるRAGを紹介しました。質問に関連する文書を検索し、その内容をLLMへ渡すことで、社内文書を参考にした回答を生成する仕組みです。これにより生成AIは、マニュアルや規程、設計書などを参照しながら回答できるようになりました。

しかし、企業の情報は本当に「文章」だけなのでしょうか。次のような質問を考えてみます。

「この部品を使用している製品を教えてください。また、その製品を購入した顧客のうち、現在も保守契約が有効な会社を一覧にしてください。」

この答えは一冊のマニュアルには書かれていません。部品情報・製品情報・出荷履歴・顧客情報・保守契約、これら複数の情報を組み合わせて初めて分かります。つまり企業が持つ本当の知識とは、文章だけでなく「情報同士のつながり」の中にも存在しているのです。

図2-1|バラバラの情報を線でつなぐと、答えが見えてくる

AIが理解すべきは「文書」ではなく「企業の知識」

私たちは普段、頭の中で自然に情報を結び付けています。「このモーターは製品Aに使われている」「製品Aは株式会社〇〇へ納入された」「株式会社〇〇では最近故障が発生した」——これらを聞けば、多くの人は「故障はこのモーターが原因かもしれない」と自然に考えます。

しかしコンピュータにとっては、それぞれが別々の情報です。情報同士の関係を明確に整理しなければ、このような推論はできません。企業向けAIでは、この「つながり」を知識として管理することが重要になります。そこで登場するのがKnowledge Graphという考え方です。

Articul8が考えるKnowledge Graph

Knowledge Graphと聞くと、多くの人は「情報を線で結んだグラフ」をイメージするかもしれません。もちろんそれも重要な要素です。しかしArticul8が扱うKnowledge Graphは、それだけではありません。Articul8では、企業の知識を次の3つの情報として管理します。

図2-2|文書構造・意味検索・関係性。この3つが組み合わさる

1. Document Structure(文書構造)

まず管理されるのが文書そのものです。文書は Document → Page → Block という構造で、ページ単位、さらに段落や表、図などの Block 単位まで分割して管理されます。これによりAIは「どのページに書かれていたのか」「どの段落が根拠なのか」まで示しながら回答できます。企業では「答え」だけでなく「その根拠」が非常に重要だからです。

2. Vector Search(意味検索)

次に利用されるのが Vector Search です。前回説明したように、文章は Embedding によって数値へ変換され、「退職」「雇用契約終了」「会社を辞める」のように表現が異なっても意味が近い文章を見つけられます。AIはまず意味の近い情報を探し、関連する文書を見つけ出します。これは RAG でも使われていた仕組みです。

3. Graph Relationship(関係性)

しかし、企業の知識は意味検索だけでは十分ではありません。「何が」「どこで使われ」「誰に提供され」「何と関係しているのか」という情報も非常に重要です。Graph はこのような関係を管理します。AIはこのつながりをたどることで、一つの文書だけでは分からない答えを導き出せるようになります。

この3つが組み合わさってKnowledge Graphになる

それぞれ役割の違う技術です。Document Structure は「根拠」を管理し、Vector Search は「意味」を探し、Graph Relationship は「関係」をたどります。企業の質問は、このどれか一つだけでは答えられません。

AIはまず意味検索で関連する情報を探し、必要に応じて情報同士の関係をたどり、最後に元の文書へ戻って根拠を確認します。Articul8では、この一連の知識基盤全体を Knowledge Graph として扱っています。

図2-3|意味で探し、関係でたどり、根拠で確かめる

つまり Knowledge Graph とは、単なる「グラフ」ではなく、企業の知識を構造化し、AIが理解・推論できる形に整理した基盤なのです。

補足:一般的な Knowledge Graph との違い
一般に Knowledge Graph とは、人物・製品・部品・企業などの Entity と、それらの間の意味のある関係を、グラフ構造で表した知識のネットワークを指します。本記事で扱う Articul8 の Knowledge Graph は、こうした Entity や関係だけでなく、元の Document・Page・Block といった文書構造や、意味検索に使う Vector 情報も含めた、より広い企業知識基盤として説明しています。基本的な考え方は共通していますが、文書・意味・関係・根拠を一体として扱う、拡張された概念と捉えると分かりやすいでしょう。

Knowledge Graphの中にはどのような情報が入るのか

企業の文書は、そのまま Knowledge Graph になるわけではありません。AIは文書を解析し、文書・ページ・段落・製品・部品・人物・規格・事実・質問・トピックといった単位へ整理しながら知識を構築していきます。この粒度で整理されることで、AIは単なる文書検索ではなく「知識」を理解し、推論できるようになります。

NEXT

次回は、Knowledge Graph を構成する Document・Page・Block・Entity・Claim・Question・Cluster が、それぞれどのような役割を持っているのかを詳しく見ていきます。